空は紫だった。あぜ道。田んぼ。
人は見当たらず、ただただ道を歩かされていた。
暫く歩いているとまえには、犬。
なんだっけ、柴犬ってやつか?
咬まれることはないだろう。
不思議な確信を持って僕は近づき、僕は咬まれた。
犬に裏切られたという酷く悲しい気持ちのまま、僕はまた歩き続けた。咬まれた手は血でベットリと濡れている。
さらに行くと、小さな山小屋のようなものを見つけた。夜はもう更けていて、遠くからでは気がつかなかったのだ。近づくにつれ、男の人の大きな声が聞こえてきた。
怒鳴り声のようだった。
見ると玄関の前で、男の人が小さな男の子に何やら説教をしていた。その怒鳴り声は、単なる威嚇のために何度も何度も張り上げられていた。
男はこちらに気づきチラリと一瞥したが、また構わず続けた。
僕は子どもの頃を思い出していた。良かれと思ってしたことで、父親にひどく叱られたこと。学校で先生に、なんの弁明も聞いてもらえず、否定の言葉を投げかけられたこと。
そんな厄介な感情を抱えたまま、僕は小屋の前を通り過ぎた。手の痛みはますます酷くなっていた。
「あの犬、病気とか持ってないだろうな」そんなことを考えながら僕は鬱々とした気持ちで歩いている。
コーク瓶を逆さにしたような雲だ。
僕は痛みから気を逸らそうと、そんなことを考えながら歩いた。
暗い感情を抱えてさらに道を行くと、道の端っこに拳銃らしきものが落ちていた。
「お、ラッキー。コレはラッキー。相当ラッキー。ちょっとなかなか無いことです、これは。」
などと僕は思い事実そう口にしながら、拳銃を拾い上げ、犬に咬まれた方の手を撃ち抜いた。
痛みが痛みを包み込んでいく。
僕は何やら晴れやかな気持ちになって、さっきの犬を探した。
風はびゅーびゅー。葉っぱがかさかさ。
僕はスキップしながら歩いた。
見ると、犬は悠長に道の隅で花の匂いを嗅いでいた。僕は苛立ち、気分が悪くなった。
犬は僕に気がつくと、凄い勢いでこちらに向かってきた。どういうわけか、尻尾が嬉しそうにふりふりしている。
僕は迷わずすぐさま犬を撃ち抜いた。
一発目は頭に命中。二発目を追加で更に撃ち込んでやった。
犬は絶命した。
腕は確かだった。コレでも僕は昔殺し屋をしていたのだ。嘘だけど。
僕はその結果に満足し、先ほどの小屋に向かい道を戻って歩きはじめた。まだやることがある。
真っ暗だったはずの空はまた夕焼けが染め上げている。