滲む虫

虹色の虫を見たことがあるか
それは土にもおらず、また空のなかにもいない
それは指先、裏切り者の指先のなかに眠っている


例えばあらぬ恋人に嘘をついてチャイムのなか、逢瀬をかさねるとき
たとえば換気扇照らし、肩越しに試験の答えを友人から盗み見るとき
例えば幼き頃より母に嘘をつき、二階のベッドでちいさく冷たく眠るとき


そんな時その虫はたしかにそこにいて、飛びまわってはまたそこで寛ぎ眠る
手を振り払っても、そのゆびで壁を突いてみても
その虫は依然としてそこに答案の裏に
水陰に、唄のまわりに、猫の泣きっ面に
それらを通して戻り舐る


指先を食い尽くす迄
あきらめるあの虫でない


黒いガラスを握り締めて、やっと少し楽になった