道程

つぶれた苺を口にいれてみる
口内でほぐしてみる
息を大きく吸い込むと、豊かな甘い香りと共に、部屋から聞こえる重たい足どり
咀嚼音と混じり合って
嫌らしく笑う声が近づいてくる
すこしいやになって彼はテレビを点ける


誰かの想像でつくったこの街はいつも遠慮がちに揺れている
アイツの口の形そっくりに街は変わって行く
乾涸びたコートを着たオヤジは、暖簾ハタめく屋台や白っぽく剥げた壁にうつる影をさすりながら、行く行く
お気に入りの靴のかたっぽは後ろのほうで
子どもたちに囃し立てられながら
貧しい光りを吸い込んでいる
わらい声は死にたい気持ちを募らせて行く


ロッド・スチュワートに憧れて
犬も風も砂埃と光も、ソイツと一緒に歌っている


俺はつぶれた苺をほぐしおわって、また皆んないつもの労働に戻ってゆく
ほぐれてほぐれて、嬉しくなまぬるく