決意

あなたが画家になりたいと
決めて仕舞えば
普段は仕事からの逃避場
心のオアシスとしていた画集も
あの絵の具たちの囁きはどこへやら
単なるつめたい教科書へと
変わるだろう


あなたが科学者になりたいと
決めて仕舞えば
飛び立つ好奇心の温床
いつだって少年時代に連れ戻した
あの色濃く柔軟な自然も
義務を訴える青白い教師へと
変わるだろう


何かを決めて仕舞えばその瞬間
そこには心踊るものはなにもない
次々と急かす訳知り顔のブタが
のさばるだけだ


では我々は人生をどうしたいのだろう
簡単 触らないことだ
心のなかで走りまわる豚も
切先刃物のような草花の囁きも
博学で柔らかなゴリラの物知り顔も
全てあるがままに放しておく


汽車が日常を踏みつぶすように
カラカサは風に舞う
想い出は塗り固められ
適度に心臓から風が漏れる


手ごろな女のヒモになって
移りゆく季節を見ていたい
チェーンソーで日常をギザギザに
細切れにしていたい
愛をぼんやりと伝えて
記憶をなくしてしまいたい