夜明け

貧しい木こりは背後にこっそり隠しもってた、お気に入りの音響砲で、林を愉しげに駆け抜ける一羽の兎を撃ち抜いた
そのショットガンは月夜をバリバリにした
崖を転げ落ちた金色の肉は赤く引き裂かれ、氷の線の入った泉のように綺麗な液が垂れ流れてる
それがどうした
ここにあるじゃないか
水溜りにはおどろおどろしい素顔が映る
見上げれば、あまりに醜い、潰れた父の血まめのような空がひろがって
僕が夜に投げつけた星たちは何処へやら
木の陰ではセザンヌがこちらを覗いている
降ってくるのは色に塗れた水晶のような想い出の粒、あられ


それは薄氷の雪にまじって、ぼくらを脅し続けた
街の間をぬって走る汽車は止まり、駅のホームでは女の子の髪型は乱されて、サラリーマンは罵声を浴びせる、てんやわんやだ
それを見て笑い転げてる奴らの命も削り取られた
これですこしは宇宙の歪みも訂正されただろう
顔を歪めて引き攣る炭鉱夫、機械工は狭く暑苦しい内部屋で足を投げ出す
向かいの神様はカードゲームの賭け金を間違えたみたいだ
そこに住む人々の心を越えて
売れないアロハシャツのミュージシャンは、大きな月と夢が散り散りに反射して路を照らす今日、通りがかりその屍体をみつけた
誰も手に取らない客の気を惹いたこともないそのいびつな手で
とっておきの歌をつくり、満足そうに臭気漂う地下道で鳴らし続けた
その音は月明かりの中こだまして、一家団欒の赤い屋根を引き剥がし、引っ叩いたよ


あまりにそとの騒動が鬱陶しくて、僕はハサミで少しだけ自分の髪を切って
それからそれを窓から夜にむかってばら撒いた
そこに見えたのは、海、それも日本じゃなく、アラビアかどっかの海だった